【環球異見・原発事故】「私を原発信者にさせたフクシマ」英紙で環境コラムニスト+(1/3ページ) - MSN産経ニュース

「私を原発信者にさせたフクシマ」英紙で環境コラムニスト
2011.3.28 14:45 (1/3ページ)

 東日本大震災で被災した福島第1原発事故の行方を世界が注視している。「想像できる範囲で最も厳しい試練に直面」(英紙)との見方も広く共有されている一方で、当局や原発業界が抱える問題点を指摘しつつ、事故を教訓としてより安全な原発との共存を模索する論調も欧米各紙には目立つ。

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ウォールストリート・ジャーナル(米国)

 ■予測超えた事故は起きる

 福島第1原発事故をめぐっては、なぜこの惨事が防げなかったのかという検証が各方面で行われている。

 それ自体は再発防止へ重要だが、米紙ウォールストリート・ジャーナル元発行人のゴードン・クロヴィッツ氏は、「情報のツナミ」と題した21日付同紙コラムでやや違う視点から論じた。

 クロヴィッツ氏は、「情報が洪水のようにあふれる社会では驚くことが何もないようだが、その実、われわれは驚いてばかりだ」と強調。事故が起きた原発も想定された地震津波には耐えられても、「リスクの想定を超える事故が起きると、誤りだったとなってしまう」と、日本人が誇る技術の限界点を指摘する。

 クロヴィッツ氏が引き合いに出すのが、オーストリア生まれの経済学者、ハイエクの1974年のノーベル賞受賞演説だ。ハイエクは「見せかけの知」という概念を提唱し、「(前提条件が整理された)物理学などと異なり、(社会科学など)複雑な現象を扱うその他の学問分野ではデータの入手は限られ、重要な側面が脱落しかねない」と説いた。

 ところが、クロヴィッツ氏は自然科学でさえも複雑で人類が未知の前提は多いとして、「彼の英知の文脈には、日本の原発事故もあてはまる」と指摘する。

 同紙のホルマンジェンキンス編集委員も16日付コラムで、「原子炉内部で起きたことが分からない限り、どういう事態になるかは分からない」と、原発事故の複雑さを強調した。

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 クロヴィッツ氏は「われわれは予知できないものを恐れるが、新しい技術と同時に、新しい不確実性からも学ばなければいけない」と論を結ぶが、予測を超えた原子力災害が起きたとき、どれだけ有効な手立てを取れるかも重要な教訓となりそうだ。(ワシントン 柿内公輔)

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ニューヨーク・タイムズ(米国)

 ■「規制の乗っ取り」打破せよ

 「米国の、そして全世界の原子力政策のあり方について再考する機会となる」。プリンストン大のフランク・ヒッペル教授は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿(24日付)で、専門家の立場から、福島第1原発事故をこう分析した。

 ヒッペル氏は米原子力業界を見回し、経済学で「規制の乗っ取り」と呼ばれる現象の典型が起きている、と指摘する。「規制の乗っ取り」とは規制対象の業界が情報力や政治力などによって当局より優位に立ち、規制を都合良くねじ曲げてしまう現象のことで、「これを打破するのは活発な世論と議会の力しかないが、現実にはスリーマイル島事故以来、米原発業界に対する当局の力は低下する一方だった」という。

 一例として挙げられているのは、今回の事故でも深刻な事態に陥っている使用済み核燃料の貯蔵プール。科学者からは繰り返し、より安全性の高い乾式貯蔵施設への移行が提案されてきたが、米原子力規制委員会(NRC)自身がコスト面などの理由で却下し続けてきた、とヒッペル氏は指摘する。

 「規制の乗っ取り」がまかり通る構図は、いうまでもなく日本でも同様だ。「今回の事故のもっとも重要な教訓は、業界と規制当局との関係を変えなければならないということだ」との指摘は、まさしく日本にも当てはまる。

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 そういいながらもヒッペル氏は“反原発”ではない。「原発は米国の電力の20%を供給し、気候変動問題の解決にも欠かせない。われわれは現存の原発をより安全にするとともに、より安全な次世代原発の開発をめざすべきだ」。悲惨な福島の事故はそうした目標に向かって前進するための得難い機会でもあるのだ、と結論づけている。(ニューヨーク 松尾理也)

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ガーディアン(英国)

 ■私を原発信者にさせたフクシマ

 22日付の英紙ガーディアンで環境コラムニスト、ジョージ・モンビオ氏は「なぜフクシマは私の不安を取り除き、原発を許容させたのか」と題して「原子力は想像できる範囲で最も厳しい試練に直面しているが、人類や地球への影響は小さい」と指摘している。

 モンビオ氏は地球温暖化に警鐘を鳴らしてきた環境派だ。温暖化対策のため温室効果ガスを出さない原子力を見直す動きには距離を置いてきたが、福島第1原発事故を目の当たりにして原発推進派に転じたと打ち明ける。

 「不十分な安全機能しかない老朽化したポンコツ原発を怪物のような地震と巨大津波が襲った。原発は爆発し炉心溶融を始めたが、知り得る限り誰一人として致死量の放射線を浴びていない」と語り、環境保護派は放射能汚染の被害を誇張し過ぎているとも批判する。

 モンビオ氏はまた、「エネルギーは薬と同じでどんなものでも副作用を伴う」と指摘。太陽光など、再生可能なエネルギーを促進する必要はあるものの、原発による電力供給をすべて再生可能エネルギーに置き換えることはできない。

 環境保護派は風や川の流れをエネルギーに転換する牧歌的な理想を唱えるが、水力発電は川の流れをせき止め自然環境を破壊する。 英イングランド地方では1800年に1100万トンの石炭が産出されたが、これと同じエネルギーを得ようとすれば4万4500平方キロメートル超の森を切り倒す必要があるという。

 モンビオ氏は「原発を廃止したらそれに代わるのは森でも水でも風でも太陽でもなく化石燃料だ。石炭は原発の100倍の害をまき散らす。原子力産業のウソは嫌いだが、フクシマは私を原発信者に改宗させた」と結ぶ。(ロンドン 木村正人)