Dr.中川のがんの時代を暮らす:/41 科学的判断を− 毎日jp(毎日新聞)

Dr.中川のがんの時代を暮らす:/41 科学的判断を

毎日新聞 2012年06月18日 東京朝刊

 被災地の復興を妨げている「がれき」は、岩手県で525万トン、宮城県では1154万トンに上ります。県内だけで処理するにはあまりに膨大な量で、両県は、ともに約120万トンの「広域処理」の依頼をしています。特に、宮城県石巻市周辺のがれきは宮城県の4割にあたる446万トンに達し、岩手県の総量に匹敵します。

 さて、北九州市は、石巻市のがれきを受け入れる準備を進めており、先月23〜25日に石巻から搬入したがれきの試験焼却を実施しました。しかし、前日の22日朝、石巻のがれきを積んだトラックが北九州市の保管施設を目前に、立ち往生してしまいました。一部の過激な運動家など反対派約50人が、横断幕を掲げてスクラムを組んだり、正面ゲート前に座り込むなどして、搬入に抵抗したからです。市職員や福岡県警の警察官ともみ合いになり、男性2人が公務執行妨害の疑いで逮捕され、トラックは予定より8時間以上遅れて施設内に入りました。

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 一方、北九州青年会議所が3月、市民737人を対象に実施したアンケートでは、がれき受け入れに賛成が69・7%、反対は8・4%となり、「痛みは分かち合うべきだ」「積極的に協力すべきだ」など、受け入れに前向きな意見も寄せられたといいます。しかし、こうした「マジョリティー(多数派)」の「サイレント(静か)」な声は目立ちません。声の大きな少数の意見が「民意」とされるとすれば、民主主義のルールに反すると思います。

 試験焼却の結果は、28日に公表されましたが、煙突からの排ガスや燃え残った主灰から、放射性セシウムは検出されませんでした。放射性物質を多く含むとされる飛灰についても、最大で1キロあたり30ベクレルと、国の埋め立て基準値8000ベクレルをはるかに下回りました。人体には、天然の放射性物質カリウム40が含まれ、体重1キロあたり70ベクレル程度の放射能を持っており、がれきの放射能は問題にならないと考えられます。科学的な判断と「お互い様」の気持ちが広がれば、と思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

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