福島健康調査:「秘密会」出席者に口止め 配布資料も回収− 毎日jp(毎日新聞)

島健康調査:「秘密会」出席者に口止め 配布資料も回収

毎日新聞 2012年10月03日 02時30分(最終更新 10月03日 05時14分)
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影
拡大写真

 東京電力福島第1原発事故を受けた福島県の県民健康管理調査について専門家が意見を交わす検討委員会で、事前に見解をすり合わせる「秘密会」の存在が明らかになった。昨年5月の検討委発足に伴い約1年半にわたり開かれた秘密会は、別会場で開いて配布資料は回収し、出席者に県が口止めするほど「保秘」を徹底。県の担当者は調査結果が事前にマスコミに漏れるのを防ぐことも目的の一つだと認めた。信頼を得るための情報公開とほど遠い姿勢に識者から批判の声が上がった。【日野行介、武本光政】

 9月11日午後1時過ぎ。福島県庁西庁舎7階の一室に、検討委のメンバーが相次いで入った。「本番(の検討委)は2時からです。今日の議題は甲状腺です」。司会役が切り出した。委員らの手元には、検討委で傍聴者らにも配布されることになる資料が配られた。

page: 2
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影

 約30分の秘密会が終わると、県職員は「資料は置いて三々五々(検討委の)会場に向かってください」と要請。事前の「調整」が発覚するのを懸念する様子をうかがわせた。次々と部屋を後にする委員たち。「バラバラの方がいいかな」。談笑しながら1階に向かうエレベーターに乗り込み、検討委の会場である福島市内の公共施設に歩いて向かった。

 県や委員らはこうした秘密会を「準備会」と呼ぶ。関係者によると、昨年7月24日の第3回検討委までは約1週間前に、その後は検討委当日の直前に開かれ、約2時間に及ぶことも。第3回検討委に伴う秘密会(昨年7月17日)は会場を直前に変更し、JR福島駅前のホテルで開催。県側は委員らに「他言なさらないように」と口止めしていた。
 ◇「今後はやめる」

 秘密会の日程調整などを取り仕切っていた福島県保健福祉部の担当者との主なやり取りは次の通り。

 −−検討委の会合ごとに秘密の準備会を開いていなかったか。

 記憶にない。

 −−昨年7月、秘密会の会場を急きょ変更し、口止めを図ったことはないか。

 ……覚えていない。

page: 3
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影
秘密会のため福島県庁を訪れた検討委員会のメンバーら=2012年9月11日午後1時過ぎ、武本光政撮影

 −−検討委の約1週間前に委員を呼び出したり、検討委と別に会場を設けたりしていなかったか。

 ……確認のため時間をください。

 <約1時間中断>

 −−確認できたか。

 指摘の通りの事実があった。毎回準備会を開催していた。

 −−調査結果や進行についてあらかじめ話し合っていたのか。

 事前に調査結果を説明し、委員に理解してもらったうえで臨んでほしかった。事前に調査結果を配りたいが、それができない。

 −−マスコミに漏れるからか?

 それもある。

 −−なぜ隠していたのか。

 隠していたつもりはないが、積極的に知らせるのは避けた。ナーバスになっていた。

 −−県民に不安を与えないように検討委を進めたかったのか。

 それはあった。秘密会合と言われても否定できず、反省している。こうした準備会は(今後)開催しない。

undefined

福島健康調査:「秘密会」で見解すり合わせ− 毎日jp(毎日新聞)

島健康調査:「秘密会」で見解すり合わせ

毎日新聞 2012年10月03日 02時31分(最終更新 10月03日 05時12分)
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影
拡大写真

 東京電力福島第1原発事故を受けて福島県が実施中の県民健康管理調査について専門家が議論する検討委員会を巡り、県が委員らを事前に集め秘密裏に「準備会」を開いていたことが分かった。準備会では調査結果に対する見解をすり合わせ「がん発生と原発事故に因果関係はない」ことなどを共通認識とした上で、本会合の検討委でのやりとりを事前に打ち合わせていた。出席者には準備会の存在を外部に漏らさぬよう口止めもしていた。

 県は、検討委での混乱を避け県民に不安を与えないためだったとしているが、毎日新聞の取材に不適切さを認め、今後開催しない方針を示した。

 検討委は昨年5月に設置。山下俊一・福島県医大副学長を座長に、広島大などの放射線医学の専門家や県立医大の教授、国の担当者らオブザーバーも含め、現在は計19人で構成されている。県からの委託で県立医大が実施している健康管理調査について、専門的見地から助言する。これまで計8回あり、当初を除いて公開し、議事録も開示されている。

page: 2
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影

 しかし、関係者によると、事務局を務める県保健福祉部の担当者の呼びかけで、検討委の約1週間前か当日の直前に委員が集まり非公開の準備会を開催。会場は検討委とは別で配布した資料を回収し議事録も残さず、存在自体を隠していた。

 9月11日に福島市内の公共施設で開いた第8回検討委の直前にも県庁内で準備会を開いていた。同日は健康管理調査の一環である子供の甲状腺検査で甲状腺がん患者が初めて確認されたことを受け、委員らは「原発事故とがん発生の因果関係があるとは思われない」などの見解を確認。その上で、検討委で委員が事故との関係をあえて質問し、調査を担当した県立医大がそれに答えるという「シナリオ」も話し合った。

 実際、検討委では委員の一人が因果関係を質問。県立医大教授が旧ソ連チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんの患者が増加したのは事故から4年後以降だったことを踏まえ因果関係を否定、委員からも異論は出なかった。

 また、昨年7月の第3回検討委に伴って開かれた準備会では、県側が委員らに「他言なさらないように」と口止めもしていた。

page: 3
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影
秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で2012年9月11日午後1時55分ごろ、武本光政撮影

 毎日新聞の取材に、県保健福祉部の担当者は準備会の存在を認めた上で「あらかじめ意見を聞き本会合をスムーズに進めたかった。秘密会合と言われても否定できず、反省している。(今後は)開催しない」と述べた。

 福島県の県民健康管理調査は全県民を対象に原発事故後の健康状態を調べる。30年にわたり継続する方針で、費用は国と東電が出資した基金で賄う。【日野行介、武本光政】

undefined

がん発症を疑う所見はない、県民の不安解消に努力する――福島県の小児甲状腺検査キーマンに聞く(1) | 社会・政治 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

がん発症を疑う所見はない、県民の不安解消に努力する――福島県の小児甲状腺検査キーマンに聞く(1) - 12/07/11 | 00:00


 福島第一原子力発電所事故による福島県民の不安の解消と安全・安心の確保を目的に昨年10月から始まったのが県民健康管理調査事業。その中で、小児甲状腺がんを見つける超音波検査に注目が集まっている。同検査は原発事故発生当時18歳以下だった福島県のすべての子ども(約36万人、県外避難者を含む)を対象に生涯にわたり実施される。旧ソ連チェルノブイリ原発事故をきっかけに放射性ヨウ素を体内に取り込んだ子どもの間で甲状腺がんが急増した経験を踏まえたものだ。

 チェルノブイリ事故後の医療支援活動を通じて放射性ヨウ素の被曝による小児甲状腺がん多発の事実を突き止めた山下俊一・福島県立医科大学副学長(県民健康管理調査検討委員会座長)と、福島県の小児甲状腺検査で中心的な役割を担う同大学の鈴木眞一教授(同検討委員会委員)に、調査の目的やこれまでに判明した結果、課題について聞いた。


山下俊一副学長(左)と鈴木眞一教授(右)


――昨年3月11日の原発事故当時、18歳以下だった子どもを対象にした甲状腺検査がスタートしました。検査の目的と意義について説明してください。

鈴木 まず、ご認識いただきたいのは、現在実施している検査は「先行検査」と呼ばれるもので、現時点での甲状腺の状態を把握することが目的だということだ。通常、小児甲状腺がんが見つかるのは100万人に1〜2人程度。チェルノブイリ事故で小児甲状腺がんが多く見つかったのは被曝の4〜5年後からで、発症までには一定のタイムラグがある。私たちが事故後の早い時期から甲状腺検査に着手したのは、お子さんの健康を心配する県民の皆さんの期待にしっかりと応えていきたいという問題意識に基づいている。

page: 2


3割超で嚢胞・結節 何を意味するのか

――3月末までの甲状腺検査結果(表)では35・1%の子どもから水分を含んだ袋状の嚢胞(ポリープ)が見つかっています。結節(充実性の隆起)が認められた子どもは1・0%(うち5・1ミリメートル以上の結節を持つ子どもの割合は0・48%)に上ります。この数字を見て、不安を感じる親が少なくありません。

鈴木 (嚢胞を持つ子どもの割合が35%、結節で1%という)数字はかなり小さいものまできちんと拾い上げた結果だ。最近の超音波検査機器は性能がよいため、わずか1ミリメートルの結節や嚢胞も読み取ることができる。また、大人の甲状腺検査では「所見なし」とされる可能性のある2〜3ミリメートルのものも、今回の検査ではしっかりとカルテに記録している。

 甲状腺治療の専門家の会議で報告した際も、とても多いとか驚いたといった声は聞こえてこなかった。私自身も想定の範囲内ととらえている。ただ、原発事故の直後から多数の子どもを対象に甲状腺を検査した事例は世界的にもないので、今後しっかりと経過を見ていく必要がある。

 約36万人を対象に2年半で先行検査を終了させ、その後20歳になるまでは2年ごと、20歳以降は5年ごとに検査を実施していく。3月末までに検査にかかわった医師や技師は県立医大および県外の大学、県内従事者などを合わせ、延べ500人以上に上る。


page: 3


――2次検査が必要になった子どもは186人になりました。2次検査ではどんな検査が実施され、どのような結果が出ていますか。

鈴木 全員を対象とした血液検査や尿検査のほか、必要と思われる子どもには穿刺吸引細胞診を実施している。血液検査はがんを調べるためのものではなく、甲状腺ホルモンの量をチェックすることが目的。ホルモンの分泌が多すぎたり少なすぎたりすると、身体に変調を来したり、しこりの成長に影響を及ぼすことがある。血液検査は、1次検査で一定の所見が認められた受診者に限って実施している。尿検査は食事からのヨウ素の摂取状況を調べるもので、摂取量が少ないと甲状腺の腫れにつながる可能性がある。細胞診は組織の特徴を判断するためのものだ。

 これまでの2次検査では、がんを疑う所見はなかった。心配する保護者にはすべての画像をお見せしたうえで、納得していただくまで丁寧に説明している。ほかの医療機関に行ってセカンドオピニオンを得ることは否定しないが、私どもの判定が複数の医師による精度の高いものであることをご理解いただきたい。県外に転居しても検査を受けることができるようにすべく、各都道府県の専門の医療機関と協定を結び、精度の高い検査体制を構築していく。

他地域との比較研究は学会での重要課題に

――今のところ心配する必要はないとのことですが、米国の小児がんに関する教科書には「子どもの甲状腺で結節が見つかることは極めてまれ」「若い人で結節が見つかった場合は悪性のリスクが大きくなる」とも書かれています。

山下 記述自体は正しい。しかし、今回見つかった結節の悪性度は高くなかった。小児甲状腺がんの治療成績は非常に良好だということにも留意する必要がある。ほとんどの場合、手術などで治癒する。チェルノブイリ事故に際しては約6000人が甲状腺の手術を受けた一方で、亡くなったのは15人にとどまった。

page: 4


――山下さんら研究者が2001年に発表した論文では、チェルノブイリ事故で多くの小児甲状腺がんが発生したベラルーシのゴメリ州と長崎市の子どもに対する甲状腺の超音波検査の結果として、5・0ミリメートル以上の結節のある子どもの割合がゴメリ州で1・74%(342人)に達したのに対して、長崎市では0・0%(0人)と記述されています。今回の県民健康管理調査では5・1ミリメートル以上の結節が認められた子どもが0・48%(184人)に上っていることから、チェルノブイリほど深刻ではないものの安閑としていられないのではといった指摘もあります。

山下 もともとこの論文は食事摂取に基づく尿中のヨウ素甲状腺疾患の関係を検証しようとしたもので、その“副産物”として結節や嚢胞の頻度を報告した。留意しなければならないのは、母集団の数や年齢が、ゴメリ州と長崎市とでは大きく異なるという点だ。ゴメリ州の調査対象が1万9660人に上るのに対して、長崎市では250人。年齢もゴメリ州が11〜17歳である一方、長崎市では7〜14歳となっている。ゴメリ州と長崎とでは用いた検査機器も異なる。さらに、10年以上前の機器による検査結果と最近の高性能の機器による結果は大きく異なるため、当時と現在の検査結果を比べることに意味はない。

 もちろん、福島県での検査結果を福島原発事故による放射線の影響がない地域での検査結果と比べることは、住民の不安の解消にも寄与する。こうした比較研究については日本甲状腺学会でも「臨床重要課題」として取り上げていただいているので、近い将来、研究が行われると思う。

住民の信頼獲得に努力 内部被曝は未解明な点も

――昨年7月の県民健康管理調査検討委員会の資料では、「現時点で予測される被ばく線量を考慮すると、福島原発事故での放射線による健康影響は極めて少ないと考えられる」という記述があります。放射性ヨウ素による内部被曝も含めての見解と受け取ってよいのでしょうか。

山下 チェルノブイリ事故で小児甲状腺がんが多発した理由として、普段はヨウ素を含む食品の摂取量が少なかった一方、放射性ヨウ素で汚染された牛乳など食物の摂取制限が遅れたことが挙げられる。避難住民の放射性ヨウ素による甲状腺の平均被曝線量は原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の推計で490ミリシーベルトに達している。甲状腺がんを発症した子どもの甲状腺被曝線量は100〜4000ミリシーベルトに上る。

page: 5


 これに対してわが国では海草などを通じてヨウ素を日常的に多く摂取してきたため、もともと甲状腺ヨウ素によって満たされている。そのため放射性ヨウ素による被曝をしにくい。加えて福島事故では汚染された牛乳が速やかに廃棄処分されたことから、甲状腺が継続して被曝する状況にはなかったと考えられる。

 ただし、放射性プルーム(放射性物質を含んだ空気の塊)を吸い込むことによる内部被曝については未解明な部分が少なくない。今後の国による調査を踏まえて、リスクが高いと考えられる子どもたちをしっかりとフォローしていくことが重要だ。

――原発事故直後の昨年3月20日以降、県内各地の講演会で「放射線被曝は心配しすぎなくていい。外を散歩しても問題ない」とした山下さんの講演を聞いた住民の一部から、疑問の声が上がっています。

山下 事故直後、毎時10〜20マイクロシーベルトという空間線量が各地で計測された。ただし、そのレベルではどんなに多めに見積もっても(がん発症が統計学的に有意に増加するとされる)100ミリシーベルトに達することはないことから、「心配しすぎなくていい」と申し上げた。

 その後の昨年4月11日、政府は年間の積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある地域を計画的避難区域とすることを決めた。これは緊急事態期における国際放射線防護委員会(ICRP)の基準値(20〜100ミリシーベルト)を考慮して設定されたものだ。

 にもかかわらず、20ミリシーベルトを超えた途端に「危険だ」「がんのリスクが高まる」といった誤解が生まれた。20ミリシーベルトという数字は放射線防護の考え方から導き出されたもので、地域の復興を図るうえでの目安となるものだ。

 私はそこまで被曝してもいいと言ったつもりはないが、誤解した方がいたことについては残念に思っている。県民健康管理調査をきちんと実施していくことで、誤解は解消に向かうと確信している。

やました・しゅんいち
1952年生まれ。長崎大学医学部教授、世界保健機関(WHO)勤務を経て2009年から長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長。11年7月から長崎大を休職し、現職。20年にわたりチェルノブイリ医療支援に従事。

すずき・しんいち
1956年生まれ。福島県立医科大学附属病院教授を経て、2010年6月から現職。12年6月から同大・放射線医学県民健康管理センター甲状腺検査部門長。11年3月から福島県災害医療調整医監も兼務。

(聞き手:岡田広行 =週刊東洋経済2012年6月30日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

undefined

甲状腺被曝の実態は未解明、福島県の意向で調査中止も(1) | 社会・政治 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

甲状腺被曝の実態は未解明、福島県の意向で調査中止も(1) - 12/07/11 | 00:00


 福島県が進めている「県民健康管理調査」。その中で202万人の全県民を対象に実施されているのが、原発事故直後からの行動記録を基に外部被曝線量を推計する「基本調査」だ。

 ところが、同調査の回答率は2割強にとどまる。事故当日の2011年3月11日から4カ月間にどこに何時間滞在したかを細かく記入してもらう反面、「問診票」と題しながらも既往歴や体調の変化を記入する欄がない。そのため、「健康への配慮が乏しい」と感じて提出しない人が少なくない。

 その一方で、小児甲状腺検査や県民健康管理調査とは別に県が実施している、放射性セシウムによる内部被曝レベルを把握するホールボディカウンター(WBC)検査への関心は高い。

 しかし、県によるWBC検査は人員や機器の不足でいつ順番が回ってくるかわからないのが実情。南相馬市立総合病院や一部民間病院は独自に機器を導入し検査を進めている(写真)。こうした動きは甲状腺検査でも起こりつつある。

 南相馬市立病院は、今年に入って東京都内の伊藤病院に甲状腺検査の技能習得を目的に3人の検査技師を派遣。わが国で最も多くの甲状腺疾患患者を診療している同病院は、いわき市内のときわ会グループからも1人の技師を研修で受け入れている。

 「行政の動きを待っていられないので子どもの甲状腺を診てほしいという保護者が被災地から大勢訪れている。福島県の取り組みに協力する一方、当院でも小児患者の増加に対応すべく、医師や看護師の確保など検査体制の充実に努めている」(伊藤公一院長)

謎に包まれる甲状腺被曝

 子どもを持つ親が不安を抱くのは、放射性ヨウ素による甲状腺被曝の実態がつかめていないからでもある。

page: 2


 政府は昨年3月下旬、いわき市、川俣町、飯舘村で1000人強の子どもを対象に甲状腺被曝状況の調査を実施。1歳児の甲状腺等価線量100ミリシーベルトに相当する毎時0.2マイクロシーベルトを超えた子どもはいなかったと発表した。ただ、簡易検査だったため、放射性ヨウ素による被曝線量を直接測ることはできていない。

 精密な機器を用いて放射性ヨウ素による甲状腺の被曝状況を測定したのが、弘前大学被ばく医療総合研究所の床次眞司教授らのグループだった。

 床次教授らは昨年4月12〜16日に、南相馬市からの避難者45人および浪江町津島地区の住民17人、計62人の甲状腺中の放射性ヨウ素を測定。46人から放射性ヨウ素が検出されたものの、呼吸による摂取時期を3月15日と仮定した最新の分析結果では、「乳幼児を含む全員で(IAEA国際原子力機関〉が定めた安定ヨウ素剤服用の基準である)50ミリシーベルトを超えていなかったと考えられる」(床次教授)という。

 そのうえで床次教授は、「当時、津島地区に多くの乳幼児が避難で滞在していたと仮定すると、50ミリシーベルトを超える子どもがいた可能性は否定できない」とも指摘。「ハイリスクの子どもを特定したうえで、継続的な健康支援が必要だ」と強調する。

 惜しまれるのは、被災者への個別調査を嫌う県の意向を受けて同調査が5日間で中止を余儀なくされたことだ。

 国は事故直後の初期被曝の実態解明に取り組もうとしているが、放射性ヨウ素が減衰した現在では新たなデータ取得は不可能。初期に集められたあらゆる手掛かりを用いて当時の被曝線量を推計するしかないのが実情だ。

週刊東洋経済2012年6月30日号)

undefined

NHK【ETV特集】シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える」 9/23(日)夜10時、再放送:9/30(日)午前0時50分

そうした汚染地帯でこれまで国際機関が放射線の影響を認めてこなかった心臓疾患や膠(こう)原病など、さまざまな病気が多発していると書かれている。