『ローマ史』55-01

 翌年*1ドルスス*2は, ティトゥス・クリスピヌスとともにコンスル*3になった。そして、悪い兆候が起こった。多くの建物が嵐や落雷によって破壊された。被害のあった建物には多くの神殿が含まれ、ユーピテル・カピトーリヌス*4と彼と共に祀られた神々の神殿さえ害された。しかしドルススはこの兆候を気に留めず、カッティー族の国に侵攻し、スエービー族の国まで進み、苦労して横断してきた領域を征服し、多くの血を流して攻撃してきた軍勢を打ち破った。そこから彼はケルスキー族の国へ行軍してウィスルギス河*5を渡り、アルビス*6まで進んだ。全ての地域で略奪しながら。アルビス河はウァンダル山脈に発し奔流となって北海に注ぐ河である。ドルススはこの河を渡ろうとしたがこの試みは失敗し、戦勝記念碑を建てて撤退した。というのも人並み外れた大きさの女が彼の前に現れ、次のように言ったのである。*7
「汝は何処に向かって急いでいるのだ、貪欲なドルスス?汝はこの地の全てを目にする運命にはない。去れ。汝の務めと生命の終わりはすでに近づいている。」
 そのような声が神から人に伝わると考えるのは確かに不思議である。しかし、私は信じる。というのも、ドルススはすぐに立ち去り、急いで戻っていた途中、ある病によってレヌス河*8にたどり着く前に死んだのである。私は次のような出来事の中にこの物語の証拠を見つけた。オオカミが宿営地の近くを彷徨い、ドルススの死の直前に吠えた。2人の若者が宿営地の塁壁の真ん中を馬で駆け抜けるのが見られた。嘆き悲しむ女の声のような音が聞こえた。空には流星が見られた。これらの出来事はここまでにしよう。