『ローマ史』55-14

アウグストゥス*1がこのように忙しかった間にも、様々な人々が彼に対して陰謀をめぐらした。特にその中にグナエウス・コルネリウス、大ポンペイウス*2の娘の息子、がいた*3アウグストゥスはその結果にしばらくの間非常に当惑した。彼らを破滅させてもずっと安全になるわけではないことがわかったので、陰謀者達に死を与えることも望まなかったし、このことが他者の反逆を引き起こすことを恐れて釈放したくもなかった。何をすべきか確信が持てなかった間にも、昼間の心配からも夜の不安からも自由になることは不可能だとわかっていた。リウィア*4がある日言った。
「どういう事です、あなた?お休みにならないのはなぜ?」
アウグストゥスは答えた。
「妻よ、常に多くの敵があって、絶えず様々な集団の企ている陰謀の的となっているのに、一瞬でも心配事を忘れることができるだろうか?どれほど多くの者が私と私たちの主権を攻撃しているかわからないか?裁判にかけられる者への懲罰さえ、彼らを阻止する役割を果たさない。否、むしろ結果は正反対となる。残った者は自ら破滅を招くのを熱望するように、またまるで名誉ある行為に励むかのようになる。」
するとリウィアはこれを聞いて言った。
「あなたが陰謀の対象となることは異常でもなく、人間の本性に反してもいません。と言うのは、あなたのように巨大な帝国を所有すると大きな事業を為さねばなりません。それは単純に多数の悲しみをもたらします。支配者はもちろん皆を喜ばせることはできません。否、それどころか、その支配が完全に正しい王すら、多くの者が敵となることを避けられません。というのも悪事を望む者は正しいことを望む者より遙かに数多くいるからです。そして彼らの願望を満たすことは不可能です。ある美点を持っているような者の中にさえ、一部の者は得ることのできない多くの大きな報酬を切望し、また一部の者は、他者よりも尊敬を得ることができないので苛立ちを募らせます。従ってこの種の者達双方は、支配者を非難します。それゆえ、あなた個人のことではなく、支配者という者は彼らの手になる危害や、それに加えて攻撃してくる者の手になる危害のいずれかとの遭遇を避けることはできません。なぜなら、もしあなたが市井の一私人なら、以前に傷つけられていない限り、誰も進んであなたを傷つけようとはしないでしょう。しかし皆が支配者の地位とその地位から得られる利益を切望します。またすでにある力を持つ者はそれが不足している者より遙かに多くを切望します。それは確かに不正で分別のない者の採る方法です。実際、それはちょうど他の本能のように彼らの性質に植え付けられています。また彼らのうちの誰かのそのような本能を説得や強制のいずれかによって破壊することも不可能です。なぜなら、自然に植え付けられた本能に勝る法や恐れは存在しないからです。このことをよく考え、それ故、別の種類の人々の欠陥に腹を立てないでください。そしてあなた自身と主権を彼らからよく守ってください。個々人に科す罰を厳しくすることによってではなく、守りを厳しくすることによって君主の座を安全に保ってください。」

*1:アウグストゥス - Wikipedia

*2:グナエウス・ポンペイウス - Wikipedia

*3:紀元前16年ー紀元前13年の事件らしい。『ローマ帝国の国家と社会』p.244

*4:リウィア - Wikipedia