『ローマ史』55-15

これにアウグストゥス*1は返答した。
「しかし妻よ、私も高い地位にいないことが常に妬みや裏切りから自由であり、一人支配はそれから最も遠いことに気づいている。確かに、もし私たちが全ての市井の人々を彼方にして、いざこざも心配事も恐怖も持たなければ、神々と同列になるだろう。しかしはっきり言うが、私はこれに悲しみを感じているのだ。これは必然的であり、それ故、解決策を見つけることはできない。」
「ですが、」
リウィア*2は言った。
「ある者達は、何があっても不正を為すことを欲する性質なので、私たちは彼らから身を守ります。私たちを守る多くの兵がいます。その一部は外国の敵に対して配備され、その他の者はあなた個人の側にいます。大きな随行団もあります。彼らの支援の結果、私たちは国内と海外の双方で安全に暮らせるでしょう。」
「言うまでもなく、」
アウグストゥスは答えて言った。
「数多くの機会に数多くの者がすぐ側の仲間の手にかかって死んだ。なぜなら、一人支配は、他の全ての欠点に加えて、他の者のように敵を恐れるだけでなく、友人をも恐れなければならないという最も深刻な欠点を持っているからだ。そして遙かに多くの支配者が、全く接点の無い者よりもそのような者によって陰謀を巡らされてきた。友人達が、昼も夜も、運動している時も、眠っている時も、彼らが用意した食物や飲み物を口にしている時も、支配者と共にいるからだ。友人についてのこの特別な欠点に悩む支配者は、敵から身を守るために友人達を配置することはできるが、まさにこの友人達から身を守るために頼りにできる類似の味方は存在しない。従って私たち支配者は常に次のことが真実だと悟る。孤独は怖いが仲間も怖い、無防備は恐ろしいが護衛者こそ最も恐ろしい、敵の扱いは難しいが友人はさらに難しい、と。『友人』、そう呼ばなければならない全ての友人に私は言う、たとえ友人でなくとも。そしてたとえ忠実な友人を見つけても、心から、動揺せず、疑い無い心で、仲間として完全に信頼することは決してできない。そしてこの状況はその他の陰謀者の集団から身を守る手段を採る必要性と結合して私たちの地位を圧倒的に悪化させる。常に復讐を行い罰を与えることが必要な状態にあることは、少なくとも善人にとって大きな悲しみの源泉である。」