水道が地下を通る距離が長い理由

塩野七生は次のように書く。

だが、ローマが大帝国になって以後につくられた水道でも、地上と地下の比率は二対四か五程度で、地下の坑道を通す距離のほうが長い。その理由は第一に、流水中の水の温度の上昇を押さえるためであり、第二に、流水中の水分の蒸発を防ぐためであった。*1

フロンティヌスは水道の建設については書いていないが、

道長官の主な任務は水道の維持であり、その任にある者は、構造のどの種のものに出費が大きいかを知っている必要がある。*2

LacusCurtius • Frontinus on the Water Supply of Rome

として各水道の地下部分、地上部分、アーチの部分別に長さを記録している。そして、

一般的に言って、経年変化や暴風雨の影響を受けることが最も多いのは、導水管がアーチの上や、丘の中腹にある箇所であり、また、水道アーチの中では、川を横断する箇所が一番多い。(略)導水管の地下にある部分は、暑さ寒さのいずれの影響も受けないので、損壊を受けることが少ない。*3

LacusCurtius • Frontinus on the Water Supply of Rome

このようにメンテナンスを重視し、地上部分と地下部分でメンテナンスにこのような差が生じるならば、このことが地下部分が多いことの理由である可能性も高いだろう。

「水の温度の上昇を押さえるため」という理由は、テプラ水道の水源は火山性の泉で水温が高かったようなので*4妥当ではないかもしれない。しかし、テプラ水道(ユリア水道と合流している)は、ほぼ半分が地上部分となっているので(温度上昇を気遣う必要がないので地上部分が多くてかまわなかったのだとすれば)逆に塩野の主張を裏付けているとも考えられる。ただし、テプラ・ユリア水道の地上部分が多いのは、カンパニア平原を横断している水道は皆10?前後が地上部分となると同時に他の水道と比較して全長が短いためである。